YouTubeの広告にげんなりした話です。
ITZYだいすき限界オタクとして毎週のように愛をささやきつづけていたところ、最愛の宇宙人が「じゃあ、こっちはどう?」といったようすで、BLACKPINKというアーティストを教えてくれた。偏食家の私とちがって、なんでも聴く人だ。勉強熱心な作り手なのである。
そしてそのBLACKPINKにもたやすく射抜かれた私は、しかしまだアルバムの購入には踏み切れず、YouTubeに足しげく通っている。
ここで取り上げたいのは、M/Vの再生前に挿入されるYouTubeの広告である。おんなじのに出くわしたともだちいるかな。「チューするところを想像してください。あなたが男性ならどっちの子がいい?」みたいなやつ。画面にはふたりの女性の顔。歯並びのふぞろいなほうと、ととのったほう。
さて、どこからNOといったらよろしいか。
私はこれからBLACKPINKに耽溺して、「ありがとう……」とつぶやきながらノートパソコンを閉じて、ぐっすり眠りたい。チューはべつにしたくない。
私はチューしたい人とチューしたい。男性にならなくてもしたかったら女性とする。男性になってもしたくない女性とはしない。
私の歯並びはがたがたである。牙みたいな八重歯(こいつは「い」を発音する形に口をひらいたとき、わずかに顔をのぞかせてかわいい)に上唇が内側から圧迫され、片方の口角だけめくれ上がっている。噛み合わせが悪いために下顎まで歪んでいる。虫歯と歯肉炎が頻発する。それでも「男性にチューしてもらうために」矯正するつもりはない。
あと、この広告はあきらかに、BLACKPINKを好んで聴く利用者向けではないだろう。BLACKPINKのファンだぞ。広告の制作会社はBLACKPINKを聴け。
この手の、コンプレックスを刺戟して女性を画一的な人工の「美」へと追い込む広告って、男性のこともなめてね? といま思った。(あとバババのバイであるぼくはいつも、存在を想定されていなくてウケるな、巻き込まれるよりましなのかな、とぼんやり外から眺めるような気分に陥る。ところで、性愛に関心をもたない人もこんなふうなのだろうか。)
だって、たとえば彼女がとつぜん矯正を終えたツルピカの歯でにっこり笑いかけてきたら、「これでチューしてくれるでしょ?」と言ったら、めちゃめちゃショックじゃない? え、うそ! おれのためだったの? どんな歯でもチューするのに! おれ、歯並びにこだわって好きな人に冷めちゃうようなやつだと思われてたの? と私には想像される。
ダイエットとか脱毛とか、したい人がしたいようにするのはたのしげだ。けれど、「そうしないと愛してもらえませんよ」というメッセージは、だれもかもをなめくさっている。「男に選ばれなければおまえは無価値だ」のファッキンクレイジーぶりについては、そろそろ浸透したと信じるから説明しない。女性をなめているから脅迫じみた広告がいまだに山手線を占拠するのだ。
あれらは、男性をも「肌が白くてツルツルで細身なのにおっぱいはおっきくてシミやシワがなくて歯並びがととのっていて若々しい女がいいんだろ? どうせ」といったぐあいになめているから、流通しうるキャッチコピーたちなのではないか。