検閲前夜のひらログ

おひまつぶしになれば、さいわいです。

大地震に乗じた悪質なデマへの対処法

 ごきげんよう。13日深夜に発生、東北地方で最大震度6強を観測した地震の直後から、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」といった悪質なデマがTwitterに投稿されています。これは深刻な在日コリアン差別、人権侵害です。そのうえ「ネタにマジレス」のような反応も目立ってきました。ごきげんよくないね。

 該当の投稿や、投稿をめぐる反応を見聞きして考えたことをまとめました。私の読者に、以下のごとき疑問のすべてに共感する人はないはずですが、デマの投稿者や擁護派に出くわしたさいに毅然と反論できるよう、やさしく書いてあります。万が一おともだちがそちら側に引きずり込まれそうだったら、当記事を読ませてあげるといいよ。おくすりになればさいわいです。

Q. デマを目撃しちゃった。どうすればいい?

A. 通報しましょう。手順は次の通りです。

ツイート右上の「…」をタップ > 「ツイートを報告する」 > 「不適切または攻撃的な内容を含んでいる」 > 「一部の国や地域で規定されている保護対象のカテゴリー……の人々を誹謗中傷または差別している」 > 「グループ、集団、団体」 > 「追加」

投稿者と直接やりとりをしたり、文字を入力したりする手間なく完結するので、お気軽にやっちゃってください。とはいえ、地震で被害を受けてTwitterどころじゃなかったり、デマを見聞きするのもしんどかったり、さまざまな事情がおありでしょう。私は、見ちゃったやつだけでも片っ端から通報しています。

Q. どう見てもネタってわかるからいいでしょ

A. これに対して答えるべきことは、大別して3点あります。

そのいち。わかんないとおもうよ。有事のたびに、この国でいったい何回、トイレットペーパーやうがい薬が店頭から姿を消したでしょうか? 全員がデマをデマと認識できるなら、このような事態はとうに克服されているはずです。私たちは私たちが期待するほど聡明ではありません。災害がいかに人間の判断力をにぶくもろくするのか、自覚だけでもしておきましょう。

そのに。「ネタ」だったら「いい」ことにはならないよ。関東大震災を直接経験していない私たちにも学びとれる最大の事実は、<たんなるデマが人間を虐殺に駆り立てうる>ということではないでしょうか。そこから導ける結論は<デマを断固として禁じるべきである>につきます。「ネタ」とやらで人は死にます。もういちどいいましょう、私たちは私たちが期待するほど聡明ではありません。

そのさん。じゃあ、悪質なデマを見聞きしたすべての人間が「ネタ」であることを瞬時に理解できたと仮定して、それ、だれが得する? センスある? おもしろい? 震災に遭って不安でいっぱいの人はどう感じる? デマによって無辜の市民が虐殺されたバックグラウンドをもつ、いまもここに実在する当事者たちはどう感じる?

Q. でも地震に乗じて犯罪に走る外国人もいるよ

A. いないことはないでしょうね。そうであるとしても、問題はそこじゃないです。行為の批判に、無関係の出自をもちだす姿勢が差別にあたるのです。いま宮城県や福島県で日本人が窃盗したって、「日本人逮捕」とは報道されないでしょ。「これだから日本人はいやしい」とか「盗人猛々しい日本人」とか後ろ指さされたりしないでしょ。

マイノリティあるある。一部の人間が問題を起こしたさい、全体にレッテルを貼られ責任を問われる。清廉潔白であることを言外に要請される。そこからすこしでも逸脱し、マジョリティの想像と異なるふるまいをすれば、「だから権利を制限されるんだ」「原因はそっちにあるんだ」という不条理きわまりない責任転嫁に利用される。

要するに、上述の疑問をもった時点で(そのうえ「じゃあ日本人はどうなの? そうだよ、国籍関係なくね?」に思いいたることがないのなら)、その姿勢そのものが差別です。

Q. バカはほっておきなよ

A. そうしてえ! できたらありがてえ! でもほうっておきません。日本では、法律、制度、大半の公人がなんの対処もしないから。デマをばらまいて逮捕される投稿者はごくごく一部で、トゥイッタージャッパーンなどはアカウントの一斉凍結にさえ踏み切れないのが現状です。

このシステムはけっこうおしまいで、日本は包括的な差別禁止法が存在しない唯一の先進国なのだそうです。ちなみに人種差別撤廃条約批准だけはしているので、条約に違反している状態です。おしまいランド。「差別はいけません」以上のメッセージを公的にアナウンスせず、なにが差別にあたるのかをだれも知らないから、こんな「ネタ」がはびこるおしまいランド。これほど悪質なデマを放置することによっても、差別を「許容」し差別に「寛容」な姿勢を公権力が示しつづけることで、差別を温存し助長し、差別に加担するおしまいランド。

法のもと、すみやかにデマが取り締まられ、標的とされたかたがたの目にふれることなく葬られるのなら、バカはほうっておけるし、そもそもバカがわきでてこないんですけどね。ほうっておいたら、増長させて、増殖させるだけです。日本にヘイトスピーチがはびこるのは、法制度がガバガバなのと、「バカはほっときなよ」スピリットのおかげです。

Q. 実際、なにが差別にあたるのか、自信がないよ

A. 私もです。私とあなたに良書との出会いあらんことを。ひとまず、差別の構造に関心がある、在日コリアン差別をしたくない/止めたい、日本がどうしてこんなおしまいランドなのか調べたい/日本のどこがそんなにいけないのかわからない、実家にレイシストがいておファック、といったかたには、梁英聖『レイシズムとは何か』を強くおすすめします。ひらログよりこの本を読んでほしい(それでも、だれのためでもなく、迷えるおのれのために当記事を書きました、だから読んでくれた人があるなら、いつもありがとう)!

 要約します。そのいち。デマが人を殺す。デマを断固として禁じるべきである。そのに。差別を放置することは差別に加担することである。日本では公権力さえ差別に「寛容」な姿勢をとっているせいで差別構造が温存されている。そのさん。『レイシズムとは何か』は必読の書。

 地震の被害を受けたかたがた、デマの標的となったかたがたに、どうかぐっすり眠れる夜がおとずれますことを。