検閲前夜のひらログ

おひまつぶしになれば、さいわいです。

アイシティはおすすめしない

 題名の内容だけ読みたい人は「止まってください」とあるところまでスクロールしてください。

 ほぼはじめてコンタクトレンズを装着している。ほぼ、というのも、五年前に数分間つけていた経験があるから。当時は、試着中に気を失いかけて、眼鏡に戻したのだった。「コンタクトで気絶する人もいる」という知識はあったものの、それが自分だとは思わないじゃん? こわかったね。「コンタクトで気絶する」という同士には、いまだ出会わず。そんなに珍しいのかな。迷走神経反射を起こしやすい不便なからだです。

 そんな恐怖体験を克服し、本日からコンタクトレンズユーザーとなりました。極度の緊張などが原因で失神した場合、二回目以降は症状が出ない人もいるらしい。私は、コンタクトレンズに関しては、さいわいにもそのパターンだった。ちなみに尖端恐怖症ではないので、目に異物を入れることへの抵抗はほとんどなく、着脱の練習はすぐに終わった。度数の高いのを装着したところ、数秒経ってじわじわとちょっと危ない予感(「あ、これ倒れるかもな」というときはわかるのだ)がしてきて、度数を下げてもらうとすぐに慣れた。初回は、緊張して倒れたというより、急激な視界の変化に酔ったのかもしれない。

 眼鏡と比較したときのコンタクトレンズのメリットは、視界がひらけること。視野にフレームが入らないし、レンズと目の距離もないから、真下や自分の肩なんかもくっきり見える。それから、髪型の制約もなくなる。伸びた前髪がはねたり額に張りついたりしない。曇ったり指紋がついたりしないところも、マスクを外せないこのごろはとくに、大変ありがたい。あと、気楽に横になれるのも嬉しい(ただし、短時間でも睡眠を取るときは外すこと)。

 デメリットは、とにかくコストがかかること。レンズ購入と定期検査。三ヶ月にいちど眼科を受診するよう「装用の手引き」には記載されている。それから、使用法を誤った場合の、健康被害のリスク。それを防ぐために検査を受けるのだ。眼球に直接ふれるコンタクトレンズは、「副作用・機能障害を生じた場合の人体へのリスクが高い」高度管理医療機器に指定されている。

 そういうわけで、からだが弱いうえにずぼらな私は、コンタクトレンズは絶対に眼科で買おうと決めていた。駅ビル併設の狭くてやたら混んでいるところじゃなくて、コンタクトレンズ処方「も」できますよって感じの、コンタクトを売らなくても潰れないであろう(=コンタクトの押し売りをしない)眼科で。

 結論からいって、この取り決めはただちに覆された。着脱の練習による新型コロナウイルスの感染リスクが判明していないため、コンタクトレンズ使用経験がない人の診察を受け付けない眼科が増えているのだ。地元で評判のよい眼科に「せっかくお越しいただいたのにごめんなさいね」と見送られ、私は五年前と同じアイシティを訪れた。

 アイシティと提携している眼科の印象は悪くなかった。朗らかな院長に「体質的にコンタクトレンズがどうしても無理な人はいますから。ちょっとでも変な感じがしたら、あきらめてください」と念押しされ、私は専門家の誠実さを感じとるとともに、コンタクトレンズとのつきあいは慎重にからだと相談すべきものなのだと気を引き締めた。

 検査と着脱の練習にもじゅうぶん時間をかけられた。ごく弱いめまいを感じつつ「大丈夫です」と申し出たところ、ようすがおかしいのを察知したのか、とっさに「それは外してください。度数弱めで作りましょう」と助け舟を出してもらったことにも感動した。

 倒れたくせに、コンタクトを目に入れること自体にはまったく抵抗を感じないというのはわれながらふしぎなのだが、矯正視力が若干落ちたことによる見え方の変化以外に違和感はない。処方箋を持って心安くアイシティに戻った。でも、立地のおかげでひっきりなしに人が出入りするから、この眼科にはもう行かない気がする。ありがとうございました。

 一行目からスクロールしてきた人は止まってください。ここからが本題。アイシティの受付に処方箋を出し、会計を待っていると、営業トークがはじまった。その内容は下に書きあらわすとおりだが、「ユーザーの健康は二の次で、売れればそれでかまわないんだな」と私は悟った。企業の方針なのだろうか? 地元の一店舗だけの話だったらまだよいのだけれど。どっちにしても、ありえないな。

 もっとも熱心に勧められたのは「定期購入」。処方箋が必要なのは、最初の申込時だけ。つまり、一年分の定期購入を申し込めば、一年間は眼科で検査を受ける必要がなくなるということ。来店も検査も不要、二五パーセント割引、お得で便利! そうですね、たしかに……。

 いえ、おかしいでしょう。三ヶ月にいちど検査を受けるのが、コンタクトレンズ使用の基本方針だったはず。もしかしたら、三ヶ月にいちどというのは一例にすぎないのかもしれないけれど、それにしても高度管理医療機器を販売するのに「受診が不要になる」ことを売りにしたプランを前面に出すのは明らかに異常だろう。口先では「定期的に受診してください」とのポーズを取りながら、本心は「医者にかからなくていいからとにかく買ってください」でいっぱいなんだ。私は辟易を通り越して恐怖を覚えた。

 「いやいや、安くまとめ買いできるだけで、『医者にかからなくていい』なんて言っていないでしょ?」との見方もあるかもしれない。そのような希望的観測を裏切る発言をも、私は耳にしたのだ。眼科では、一ヶ月で有効期限が切れる処方箋を受けとっていた。コンタクトレンズをはじめて装着したあとは、早めに検査を受けねばならない。店員はそれを見た上で、「この処方箋が切れる前に、一ヶ月以内に定期購入をお申し込みいただければ、受診の必要がなくなります」とたしかに告げた。受診を勧めるのとは正反対の言動だ。

 しかも、私の対応をした店員は、私が失神しかけたことを把握している。それなのに「まずは一年」をひたすら繰り返す姿勢にも嫌気がさした。これは単にこの店員ひとりの技術不足かもしれない。ネームプレートに「リーダー」って書いてあるけどさあ。

 「そもそもコンタクトがはじめてで体質に合うかわかりませんし、倒れたこともあるくらいですから、定期購入は来月以降考えたいです。交換はできても返品は無理ですよね?」とはっきり返事をしたあとも、「そうですね、ただ、はじめてでも一年の定期購入を選択されるお客様が多いですね」とだけあり……答えになっていないよ。私はいまほかのお客様の話をしていない。

 そのあとは、まつ毛をしっかり洗浄してくれるとかいうアイシャンプーとやらの購入を勧められた。市販のよくわからん薬を目につけるより、眼科にかかったほうが健康によくないですか? とは言わなかった。話すだけ無駄だ。

 そのあとは……まだあるの? あるのよ。会員情報を「メルマガを受信しない」に設定したところ、「もとに戻せますか」と困った顔で言われた。このごろ急な休業日もあるから、とのことだった。それがほんとうなら、Webサイトかアプリケーション内に記載したらよくないですか? たぶん、割引クーポンの適用条件に「メルマガの受信」というのがあって、でも正直にそう伝えると買った直後に受信設定を解除されるって踏んでのことだろうな。あるいは、メルマガ送信のノルマがあるとか。

 アイシティの対応は、始終、不可解だった。ユーザーの目の健康についてはひとことも話題にしないところが。せいぜい、「変な感じはしないですか?」とのあいさつくらい。異変を感じた場合の対処も説明されなかった。コンタクトレンズ初心者だろうと、失神しかけた経験があろうと、不安を抱えていようと、医師の診察をすっ飛ばして、一年ぶんの医療機器を買わせたいらしいことだけがはっきりした。よくわからない理由でメルマガ受信設定を解除しないよう迫られたのもはじめてだった。

 高度管理医療機器であるはずのコンタクトレンズが処方箋不要で入手できるシステムは、他社でもまかりとおっているのかもしれない。業界のあたりまえかもしれない。たちが悪い。購入者にとっても、手間と費用を省けるのは一見して大きなメリットだから。しかしそれは、健康を犠牲にして浴するほどの恩恵だろうか? 実際に購入希望者が多いとしても、リスクのじゅうぶんな説明が伴ってはじめて許容される商法ではないのか?

 「安く買うだけ買って、眼科には自分で通う」というのがコンタクトレンズ販売店の賢明な使いかたであり、販売店の側もそのように言い逃れて処方箋不要の商法をつづけているのだろう。とはいえ、もはや私にはこの店に足を運びたいとかお金を払いたいとかいった気持ちが微塵も残っていない。それに、眼科も評判がよくて混雑しないところに変えたいし。

 つぎの週末、きょう受診するはずだった眼科をふたたび訪れて、検査を受けなおそうと決めている。アイシティの会員証を処分するのはそのあとだ。

 当記事を読むまで、〈コンタクトレンズが高度管理医療機器であること〉〈使用にあたり定期的な検査を必要とすること〉を知らなかった読者があるなら、ぜひともコンタクトレンズとの正しいつきあいかたをよくよく調べて、目をおだいじに。