検閲前夜のひらログ

おひまつぶしになれば、さいわいです。

舌と上顎

 「上顎にべったりくっついているのが、舌の正しい位置」って小学校で教えてほしかった! 知ってた? 私は知らずに四半世紀を過ごした。舌はあらゆる歯の裏側をさわって遊んでいた。遊ばせている場合じゃなかった。いやマジで。

 いま、舌は上顎を、上顎は舌を確かめあって、あなたそこにいたのねって挨拶の頬ずりをしている。とつぜん下顎が軽くなって、口腔内は広い空洞になって、戸惑っている。これが正しい状態らしい。早く知りたかった。

 舌が正しい位置から下に落ちている状態を「低位舌」といい、これがとにかくよろしくないそうだ。気道が狭くなって睡眠時無呼吸症候群を引き起こすとか、口呼吸をするせいでドライマウス、歯周病、口臭の原因になるとか。歯ぎしりをしやすくなるとか、幼少期なら歯並びが悪くなるとか。

 心当たりがありすぎる。まず、私は野生的でふしだらな歯並びをしている。矯正したのに治らなかった。歯を裏側から舌で押す癖があったのかも。それから滑舌が悪い。イ段(き・ぎ・に・りなど)が苦手で、中学生くらいのときは家の人に指摘されるのがいやでいやで、こっそり練習して人並み以下くらいにもっていった。

 まだまだある。低位舌が私に及ぼしたであろう影響を挙げるときりがない。ストレスを感じると顎から頭にかけて痛むこと。起きると喉がからからに渇いていること。早食いでもないのに、呑気症に悩まされていること。前歯を見せて笑おうとすると、ぎこちない表情になること。幼少期から頬にほうれい線が刻まれていること。さまざまな手をつくしても猫舌が治らないこと。みんな舌の位置のせいだよって、早く知りたかった!

 専門家ではないので断定するのは早すぎるかもしれないけれど、たぶんそうだ。舌が上顎にひっついている状態を保つよう意識したら、こめかみのこりがほぐれた。鏡を見ながら舌の位置を変えると、顔つきが明らかに違う。舌が正しい位置にあるときは、下唇から下が引っ込んで、おさまりがよくなる。もはや顔全体が縦に短くなる。私はいままでなにをしてきたのだ?

 でも、いいよ。もう二五歳、まだ二五歳。気づかないよりよろしいでしょう。これからよくなるいっぽうだと考えれば、楽しみなくらいだ。唯一、放埒なる歯並びとは、生涯をともにするとしても。ここまでいっしょにきちゃうと、かわいくなってくる。

 低位舌になっちゃったのって、ほとんど生まれつきの鼻炎もちだからだろうな。口呼吸しないと死んじゃうから。ところで、舌と上顎がせっかく和解したのに、花粉症の季節がすぐそこまできている。ストラヴィンスキーとエリオットの春。生殖の春。浮き足立つ春。蠢動と分泌の春。春はきらいよ。息ができない。